2022年版・地場経営者のためのホームページ「活用」戦略

あなたの会社のホームページ、十分に働いてくれていますか?

スマホが普及した現在、商品やサービスを探す人々はお店に出かけたり、電話で問い合わせたりするより前に、ネットで検索して目当ての情報をまず手に入れるようになりました。以前は「ホームページもないのは恥ずかしいから」「とりあえずの名刺代わりにwebサイトを作っておこう」という理由でホームページを作る企業もありましたが、それだけでは不十分な時代となっています。

さらにいえば、検索エンジンで上位表示を競うSEO(Search Engine Optimization:検索エンジン最適化)も、いままでのやり方はそろそろ終りを迎えつつあります。時代の動くスピードは、これまで以上に加速しているのです。

そこでこの記事では、これからの企業はホームページをどのように活用すべきなのか、ということについて、経営者の立場に立った戦略的な視点で考えてみようと思います。

デジタルメディアを活用したブランディングの時代

デジタルメディアは多様化している

いまやほとんどの企業がホームページを開設しています。企業サイトやECサイトだけでなく、動画チャンネル、採用サイト、SNS運用、ランディングページ(LP)など、コミュニケーション・チャネルに合わせて多様な展開を行う事業主も増えてきました。

けれども明確な戦略のもとに、目的をもってこれらを活用できている企業は、実はそう多くありません。組織が大きくなれば、それぞれの担当部署が独自に戦略を立案し、計画的にサイト運営をしていきます。そのため個別の運用管理が十分進められたとしても、企業全体のブランド戦略に整合性がとれなかったり、情報の連携がうまくなされない、といった状況がしばしば見受けられます。「部分最適が必ずしも全体の最適解とは限らない」わけです。

一方、中小企業になると逆にリソースが限られるため、一人の担当者、一つの部署に負うところが大きくなります。webサイトをはじめとするデジタルメディアの管理運営ノウハウが属人的になり、質の安定を確保することが難しくなります。また多様化するチャネルに合わせて施策の幅を広げたとしても、その一つひとつを充実させていったり、統合的に連携させて活用するところまでは、なかなか手がまわりません。時間やコストによる壁も立ちはだかります。

経営的な視点でのデジタルメディアの活用は、実は企業の「ブランド戦略」の大きな部分を占めるものです。本来であればこれは文字通り経営者層が担うべき領域ですが、多忙なトップマネジメントが関与するのはなかなか困難であろうと思います。

このことは特に地場の経営者さんたちに共通する悩みです。デジタルメディアの重要性は十分理解していても、そこに充当する人材やノウハウが不足している、情報が少なく具体的に何をやればよいのかわからない、という声は高まる一方です。しかし、緊急度が他の経営課題に比べてそれほど切羽詰まっていないために「いずれ余裕ができたら取り組もう」と、つい後回しになってしまうのが現状です。

これは非常にもったいないことです。もったいないだけでなく、デジタルマーケティングが一般的になりつつある昨今、傍観しているといつの間にか先行する他社の後塵を拝するという事態にもなりかねません。もしホームページのてこ入れやリニューアルをお考えなら、いまがベストのタイミングです。 

既にご承知のことと思いますが、わが国では2019年にインターネット広告の市場規模がテレビメディアのそれを上回りました。2020年には広告費全体の36%を占めるまでに成長しています。

2020年日本の広告費グラフ

出典:内閣官房デジタル市場競争本部事務局

参考リンク:内閣官房デジタル市場競争本部事務局・デジタル広告市場の競争評価 最終報告 概要

PCやスマホを見れば、ブラウザに持ち主の興味に合わせた広告が表示されます。登録済みのサイトからはお知らせがメールで届き、割引のクーポン券は紙ではなくLINEの企業アカウント画面になりました。コロナ禍で非接触型接客が推奨されているため、飲食店での注文時に店員を呼ばずQRコードでオーダーする経験をされた方も増えていることでしょう。

これらを通じて、私たちの行動履歴はデジタル情報として蓄積されていきます。誰がいつどこで何を購入し、どんなことに関心があるのか。どういう経路でこのwebサイトにたどりつき、どのページを何分見たのか。以前であれば手間と費用をかけて調査しなければならなかったマーケティングデータが、スマホの普及で簡単に取得できるようになったのです。

私たちのまわりは2022年現在、「ユーザーから企業(ブランド)に向かう情報」の流れと、「企業(ブランド)からユーザーに向かう情報」の流れの2系統で、情報の取得・リサーチおよび発信・リリースを行う「デジタルマーケティング」全盛の状態となっています。

ブランドとユーザー間の情報の流れ

図1.デジタルでは情報の発信と取得が双方向で可能

なるほど、そうか。それではアクセスを増やすために早速インターネットに広告を出稿し、LINEの公式アカウントを開き、検索エンジンで上位表示を得るためにSEOに力を注がなければ、とお思いになられたでしょうか。

ちょっと待ってください。確かにそうした施策は重要ですが、それが御社のブランド価値向上、すなわちブランディングに貢献するかどうかの判断は、冒頭に掲げたようにどのようなホームページ活用の戦略を採るか、を考えてからでも遅くはありません

その理由を、次章で述べましょう。

まずベースとなるのは、ブランド全体の戦略だ

ホームページやインターネットを戦略的に活用するには、何をしなければならないのか。申し訳ありませんが、それを理解するために、やや遠回りをしていただかなくてはなりません。企業活動全体のお話からスタートします。

デジタルのチャネルが進化したことにより、インターネットでできることの幅は大きく広がりました。費用をかけて求人広告を出稿しなくても、ホームページで募集がかけられます。製造・生産の現場に来ていただくことなく、その様子を動画でご覧いただくこともできます。

ただし当然のことながら、企業活動のすべてがインターネット上で完結するわけではありません。

図2.企業活動とコミュニケーションチャネル

この図は、企業の活動とコミュニケーションチャネルの関係性を表したものです。

企業活動の核にあるのは、社会に対しどのような価値を、どのような手段で提供していくのか、というマインド(理念)の要素です。これを具体的な形に展開するため、ヒト、モノ、カネの経営資源を配分し、ビジネスモデルを構築します。従業員を雇用し、商品・サービスを揃え、販売チャネルを用意して客先に届ける仕組みを整備するなどして、事業を成立させるのです。

分析的に見れば、これは「マーケティングの4P(Product,Place,Price,Promotion)」あるいは「マーケティングの4C(Customer,Convenience,Cost,Communication)」と呼ばれる視点を用いた「構想の現実化」プロセスです。

マーケティングというと「売るための情報施策」ととらえられがちですが、ここでは事業戦略とほぼ同義語と考えてください。日本マーケティング協会は「企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動」と「マーケティング」を定義しています。

このマーケティング戦略に基づいて事業を現実に展開していくわけですが、そこには必ずコミュニケーション対象者との接点があります。図中、薄いブルーで示した円がその「コミュニケーション接点」です。コミュニケーションの対象者は、図中下部にライトグリーンで示した集団です。この二つを結ぶものがコミュニケーションメディア(媒体)で、大きく「ノンデジタル」と「デジタル」の2つのチャネルに分かれます。

さきほど、企業活動の核にはマインド(理念)の要素がある、と述べました。マインド要素は重要ですが目に見えないため、コミュニケーション接点においてはビジュアル(視覚)の要素と、ビヘイビア(行動)の要素に翻訳されて伝達されます。
言語によるコミュニケーションでは文字に書かれた場合ビジュアル要素に、発声により伝達される場合はビヘイビア要素に分類されます。

例えば「店舗」という接点にお客さまがお越しになっている状況を想定してみましょう。

お客さまとの接点はあらゆるところに存在する

  1. 事前にスマホで検索し、行ってみようと考え所在地や営業時間を調べた。
  2. 地図や案内経路を頼りに店を目指して歩くと、外観が見えてきた。
  3. 看板や店頭、整頓状況、混雑の様子などから雰囲気を感じ取る。
  4. 店内に入り、陳列や商品(サービス)の様子、店員の風体や態度からも印象が形成される。
  5. 商品購入をめぐり接客を受け、担当者の立ち居振る舞いや知識、熱量、気遣いなどを感じる。
  6. 検討、購入判断に至るまでの説明やサポート、包装や会計時の態度からも印象が形成される。

このプロセスの中に、デジタルのビジュアル情報、店舗内外のビジュアル情報、店員の声・態度などのビヘイビア情報、商品のビジュアル情報、来店前に事前に形成されていたイメージ、価格、感じ取った雰囲気など、多くのコミュニケーション媒体が介在しています。

1)~6)まで模式的に並べてみましたが、実際にはお客さまの頭の中では、さらに複雑な情報処理が行われているはずです。その工程はブラックボックスです。マーケターには推測することはできても、完全に解明することはできません。お客さま自身、あたかもコンピュータのように完全に合理的な判断のみで購買行動を決定しているわけではないでしょう。

「買うつもりじゃなかったけど、なんとなく買っちゃった」という経験は誰もが持つものです。

購買決定に至るまでの情報処理の過程について「これはデジタルメディアで形成し、脳にインプットした情報」「これは現実に店で見た商品からの印象情報」と、明確に分類することなど、誰にもできません。私たちがある商品やブランドの印象を決定づけるときは、「そのときまでに得た、すべての情報による総和」が根拠となるのです。

ですから企業やブランドは、具体的な媒体の手段や表現を構想するより前に、まず一貫した「ブレのないメッセージ」を設定することが大切です。
そのうえで「こうありたい」とするブランドのマインドをベースとして4P・4Cを組み立て、あらゆる接点におけるビジュアルとビヘイビアを想定し、適切な相手に適切な媒体で情報交流を図ります。これこそがブランド戦略です

相手に応じて適切な情報を提供するとしても、メッセージには整合性が必要です。同じマインドをもとにして形成されたビジネスモデルである以上、接点によってメッセージに食い違いが生じれば、ブランドの望ましい印象形成が乱されます。
顧客に対して満足度の最大化を訴求する企業が、利益を出すために従業員に無理な勤務をさせ、取引先を圧迫し、持続可能性を言いつつ余剰製品を大量に廃棄しているとしたら、「言うこととやることが違うじゃないか」と思われてしまいます。ましてやデジタルメディアの発達した現在、その種の情報が広まるスピードは格段に早くなっています。

ブランドを評価するのは顧客だけではない、という点にも注目しなければなりません。もう一度図中の、ライトグリーンの円を見てください。取引先、従業員、同業・業界、求職者、その他さまざまな関係社会(ステークホルダー)が、コミュニケーションの対象として存在しています。しかも例えば取引先の誰かは、ある時は顧客、ある時は株主という別の顔を持った人である可能性もあります。

単純化した模式図

図3.企業コミュニケーション戦略の単純化モデル

上に示した図3は、図2を単純化したものです。図2では多様なコミュニケーション接点とその対象者を網羅的に示し、それをつなぐ具体的な媒体の例をあげました。しかしそのどれもが、単純化すればこの図3に集約できます。見えないブランドのマインドをビジュアルとビヘイビアで可視化し、媒体に乗せてコミュニケーションの対象者に伝える。これがブランド戦略の最も基本的なスタイルです。

PDCAモデルで説明すると、次のような手順となります。

1)ブランドのメッセージを確立する【PLAN】

・核となるマインド(理念)が何か、を明確にする
例えばMVV(ミッション、ビジョン、バリュー)、信条、使命、自己規定などと呼ばれる企業やブランドに固有のもの

・マインドを可視化するビジュアル要素、ビヘイビア要素を明確にする

2)ブランドコミュニケーションの全体像を俯瞰し設計する【PLAN】

・マーケティング戦略、事業戦略に基づきコミュニケーション接点と、コミュニケーションの対象者を設定する

・接点と対象者に応じて、メッセージを伝える媒体(その手段と表現)を選び、作り込む

3)実際に事業を遂行し、コミュニケーションを展開する【DO】

4)メッセージに対する対象者の反応、CVRなどの効果指標、KPIの達成度などをリサーチする【CHECK】

5)リサーチ結果を次のコミュニケーションに反映する【ACTION】

ホームページをはじめとするデジタルチャネルのメディアについて、まず考える前提として経営者は、ここまでの段階を意識的に把握しておく必要があるのです。

戦略的なホームページ活用とは

ホームページは戦略が重要

さて、お待たせしました(笑)。ようやくホームページの話に入って参ります。

企業として、あるいはブランドとして誰にどのようなコミュニケーションを行うのか、その全体像が決まったら、次はデジタルのチャネルにどんな機能を期待するのか、現状のリソースで何ができるのか、を考えていきます。
前提に事業全体を見渡す視点があるかないかで、御社のデジタルメディア活用はただのホームページ運営から、戦略的なwebの活用構想に進化するのです。

従来のTV広告、雑誌広告、新聞広告といったマスメディアに代わり、現在ではホームページやSNS、動画チャンネルなどデジタルチャネルのメディアが、コミュニケーション上重要な役割を果たします。

前章で、リアルの店舗を訪れたお客様のコミュニケーション接点をシミュレートしてみました。それと同じように、この段階ではデジタルメディアに接触するユーザーのコミュニケーション接点を、これまでのデータとリサーチ、そして想像力で洗い出していきます。

より具体的で詳細なストーリーを想定するために「ペルソナ設定」を行う場合もあります。ペルソナは、デジタルマーケティングでよく用いられる概念です。年齢や居住地などのデモグラフィック属性、趣味嗜好・行動パターンなどのライフスタイル属性で考える顧客の「ターゲティング」をさらに深掘りし、名前や容姿、職業とそのポジション、どんな服装をして音楽は何を聞き、オフはどこで何をするのか、SNSは何を使いどんな情報を好むのか、という細かな部分まで作り込んだ、象徴的顧客像のロールモデルです。

このペルソナが、御社の商品・サービスをまったく知らないところからスタートして、何に触発され何を契機として御社のブランドに触れ、どんな接点・経路を通じて購買行動に行きつくのかを考えていきます。前章であえて「ブラックボックス」と表現した部分です。
これを可能な限り、詳細に可視化するプロセスを実は「カスタマージャーニー」と呼びます。

カスタマージャーニーには、当然デジタルな接点以外のポイントもたくさん出てきます。そこで、前提になったコミュニケーションの全体像が活きてきます。デジタルとノンデジタルを併用して行ったり来たりしつつ、顧客が意思決定まで旅する全行程を洗い出して、各ポイント、ポイントに効く媒体(メディア)の選定と、コンテンツ(情報の提供手段とその表現内容)を整備していきます。
言葉で説明するのは簡単ですが、なかなかエネルギーを必要とする作業です。多くの場合、リサーチデータをベースにしてファシリテーションやワークショップ、ディスカッションを活用しながら作成していきます。

ペルソナ設定やカスタマージャーニーで、顧客(さらには自社従業員、協力会社、地域の人々、株主、求職者といった他のステークホルダー)の行動に影響を与えるポイントが明らかになったら、いよいよそれに対する対策を講じる段階です。

例えば、ある建設会社があったとしましょう。規模はそれほど大きくありませんが、コストや納期よりも、お客さまがどんな家に住みたいか、綿密な取材・打ち合わせを通じてご自身でも気が付かないニーズを掘り起こし、様々な経歴を持つ従業員たちがアイデアを出しあって、提案することを得意としています。あなたなら、どんなホームページ戦略を立てるでしょうか。

ケーススタディなのでシンプルに簡略化しますが、おそらくチラシ広告や新聞広告はあまり向きません。それよりもSNSでアイデア会議の様子や、お客さまに喜んでもらえたエピソードをアップし、ホームページやLPに誘導する導線をつくります。

一方ホームページでは、これまでの事例や動画、お客さまのインタビューを個人情報に十分配慮したうえでコンテンツ化し、カスタマージャーニーで得られた潜在顧客が検索しそうなキーワードを押さえた文章で構成して、オウンドメディアを立ち上げます。
オウンドメディアとは「自社の独自媒体」を意味するもので、お客様の興味・関心領域にかかわる自社の独自コンテンツを集積するブログのことだと理解してください。

これらは、必ずしも「住宅/建築/リフォーム/事例」などのビッグワードで検索上位を狙う必要はありません。誤解をおそれず言えば、SEOはあまり重視しなくても良いでしょう。SEOキーワードを無理やり盛り込んだようなコンテンツ記事は、今後検索エンジンからもユーザーからも評価されなくなる可能性があります。
それよりも、自然な筆致で書かれた良質なコンテンツを継続的に増やしていくことで、自社のホームページが「岐阜」「中津川」といった地域名と「リフォーム」「リビング/狭い」のようなお悩みを組み合わせた、いわゆる「ロングテールキーワード」で検索するお客様から発見される可能性が高まります。

あるいは、優秀な人材を確保したいというニーズが御社にあれば、やはりオウンドメディアで「チームが力を合わせた結果、お客さまを感激させたエピソード」「新人が一度は失敗しつつ、アイデアを出して挽回した話」「健康経営の認定が得られた」など仕事におけるやりがい、楽しさや会社への信頼感を実感させる話題を掲載することが、御社への注目度形成に貢献します。

これらの施策は、短期間では成果が見えにくいため、継続性が重要です。コンテンツの内容に関することは当事者(御社)にしかわからないものですが、自社のリソースは効率よく本業に専念できるようにして、オウンドメディアの書き方や構成、文章制作などはプロの手を借りるのも一つのやり方です。

もっともっと支持されるホームページを目指して

今回述べたようなホームページへのアプローチは、今後ますます一般的になっていくと予想されます。問い合わせフォームへの入力を促して取得する顧客データの数を増やしたり、説明会に来てもらおうと自動的にメールマガジンを送ったりするような従来のやり方は、顧客の反感を買うおそれすらあります。そうではなく、自社のファンを増やす、面白そうなことを言ったりやったりしながらちゃんと一本筋が通っている、そんなブランドがこれからは支持されていきます。

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